「非線形・統計力学とその周辺」セミナーのご案内

第69回「非線形・統計力学とその周辺」セミナーのご案内

日時:平成17年10月28日(金)16:00−17:30

場所:京都大学工学部8号館3階共同5講義室

講演者: 沢田 功 (石川高専)

講演題目: 森公式の概説と最近の応用

講演要旨:

アインシュタインはランジュバン方程式によるブラウン運動の説明で、
ゆらぎの時刻相関をデルタ関数で記述すると仮定していた。
このことは、ゆらぎという力に記憶が全くないと解釈できる。
しかし、ゆらぎには記憶があってもよいはずで、その意味において、
拡張されたランジュバン方程式を森公式と呼ぶことにする。

周知のように、動力学を決定する運動方程式は、
古典系ならポアソン括弧で、量子系なら交換関係で記述される。
森肇は射影演算子を用いて、全駆動力からゆらぎを一般的に抽出した。
そこでは、物理量の時刻相関がゆらぎの記憶関数で表現できている。
森公式は数学的に厳密、つまり恒等変換ではあるものの、
揺動散逸定理の成立が物理的な探究心を掻き立ててきた。

応用に際して、森は記憶関数を連分数で定式化したのだが、
連分数係数の込み入った計算に皆が困難を覚えた。その後、
Leeによる隣接三項間漸化式を用いたヒルベルト空間の研究が
連分数による相関関数の解析をより明確にして行くことになる。
最近の進展を含めつつ、古典系の簡単な調和振動子から
高温極限で基底状態の記憶を有するスピンダイマー系までの
応用例を示すことで、森公式の有用性をお伝えしたい。

概説の参考文献:
統計物理学 現代物理学の基礎5 岩波書店
鈴木増雄 統計力学 現代の物理学4 岩波書店
宗像豊哲 物理統計学 朝倉書店
藤坂博一 非平衡系の統計力学 産業図書
川崎恭治 非平衡と相転移 朝倉書店
関本謙 ゆらぎのエネルギー論 岩波書店
森肇氏インタビュー 物性研究 80−5(2003) 631
中野藤生先生インタビュー 物性研究 84−2(2005) 157

応用の参考文献 
H. Mori, Prog. Theor. Phys. 34 (1965) 399
M. Howard Lee, Phys. Rev. B 26 (1982) 2547
I. Sawada, Physica A 315 (2002) 14
I. Sawada, AIP Conf. Proceedings 708 (2005) 701