第58回「非線形・統計力学とその周辺」セミナーのご案内
日時:平成16年12月15日(水)午後3時半−5時
場所:京都大学工学部2号館101号室
講演者:甲斐昌一(九州大学大学院工学研究科)
講演題目:
脳視覚情報系における雑音の機能的役割と認識過程
講演要旨:
これまで幼児の頃に光刺激によって形成された視覚野の脳神経回路の基本形は、 大人になっても変化しないものと考えられていた。ところが、最近、 アメリカのボストン大学の研究者が大人になっても適切な光刺激によって 視覚野の情報処理能力が改善されることを報告した [Nature Neurosci.(2002)]。これは、外界に直接反応した感覚器(網膜)からの 刺激が最初に到達する視覚野のような脳神経系では、年齢とは余り関係なく 十分柔軟で可塑的であり、学習可能であることを示している。一方、我々は、 眼に加えられた光雑音刺激によって視覚野からの脳波に確率同期現象が起こることを 見いだし、これにより適度な光雑音が視覚に入ると脳・視覚野が活性化することを 報告した。この確率同期という現象はそれ自体応答の可塑性を高めるもので、 両者は深く関連した現象であると推測される。 これらの成果から、次のような二つの重要な推論が得られる。 (1)視覚に与える適切な光雑音によって 脳視覚野の検知能力・情報処理能力が高まる。 (2)確率同期現象は非常に弱い光刺激によって脳の活動の同期化を導き、 その活用の仕方によって脳の活動状況が簡便に観測でき、かつ向上させることができる。 雑音誘起現象を利用したこれら二つの推論から、それを脳の活動状態の計測および 判定・解析、視覚判断や注意能力の向上に応用できるのではないかと考えている。 それに関連して、視覚系に入力された多義図形をどのように認知しているかについて、 他の研究者の成果も紹介する。