「非線形力学とその周辺」セミナーのご案内
(Seminar on nonlinear mechanics)

第31回「非線形力学とその周辺」セミナー


日時:平成11年10月14日(木)14時から


場所 : 京都大学工学部物理工学系校舎 2階 講義室4(216号室)

講演者:  吉冨 康成(宮崎大学工学部)

講演題目 : 温度画像を用いた人間情報解析

 将来、ロボットが人間と共に平和に働き、暮らすためには、ロボットの頭脳と してのコンピュータに人間の顔識別,表情認識,ジェスチャ理解,更に は感情や 心理状態を理解させる必要がある。しかしながら,研究室やスタジオなど照度等 環境条件を一定にできる場所でなく実社会(=環境変動 のある状況)で、顔識 別,表情認識,ジェスチャ理解を可視光画像からコンピュータで行うことは困難 に思われる。実際,これらの認識は人間にも容 易でない。

 そこで、人間が得られない情報も解析して、顔識別,表情認識,感情理解,ジ ェスチャ理解を行う研究を行ってきた。基本的には、「実社会の不確 定環境を前 提とすると、人間が得られる情報だけを解析していては、人間にかなわない。」 という認識に立って、人間に見えない光である赤外線の 強度分布を表す画像を人 間情報解析に利用する研究を行ってきた。

 近赤外線は,分子の振動で発生する。このため、Stefan-Boltzmannの法則より 原理的に温度測定が可能で、サーモグラフィーに利用されている。 この Stefan-Boltzmann法則での物理定数である放射率は、物質とその表面状態に依存 する。人間の皮膚の場合、この放射率がほぼ理論値1であ り、この特徴を利用し て、ほとんどの日常環境で用いられる温度画像解析による顔識別,表情認識法を 開発した。温度画像と可視光画像との情報 統合での顔識別,表情認識の正解率向 上にも成功している。

 更には、顔筋の動きと顔内部からの温度変化の分離を可能にする手段とし て、無表情正面顔温度画像からのCG表情合成を利用する手法を開発 した。その研 究では、無表情正面顔温度画像を基準に、任意形状に変形して、実際の顔との温 度差を求めることで人間の感情や心理状態の認識 を試みている。

 これらの研究は、従来の可視光画像解析と比較して、温度画像解析の顕著な利 点を利用したものである。そして、現在、温度動画像からの顔判 別,幾つかの表 情パターンの認識,平常な心理状態かどうかの認識,本当の笑いと作り笑いの識 別,ストレスを感じているかの認識ができるように なった。表情認識と感情理解 には、無表情温度画像と未知表情温度画像との局所的温度差を特徴量として用い ている。