第113回「非線形・統計力学とその周辺」セミナーのご案内
日時:2012年2月15日(水)13:00―15:00
場所:京都大学工学部総合校舎213講義室(吉田キャンパス)
講演者:
太田 絵一郎(京都大学 情報学研究科)
講演題目:
脳・神経系のリズムに関わる数理的研究
講演要旨:
本講演では,脳・神経系のリズムが担う機能の解明を目指した研究を二つ紹介する. 両研究で,周期的な振る舞いを示す神経素子(神経振動子)のモデルとして位相記述を用いる. 位相記述は単純かつ構造安定な記述であり,解析が効率的に行える利点がある. 第一に,揺らぎ刺激を用いた位相応答関数の測定手法について述べる. 位相記述の方程式形は,位相応答関数で特徴づけることができる. 我々はまず,振動子の外部から連続的に揺らぐ刺激を加えた時に成り立つ, 系の応答(振動周期)と揺らぎ(刺激波形)の関係式を導出した. そしてそれに基づいて,従来法よりも高精度な位相応答関数の測定手法を開発した. 本手法は,神経振動子を表す位相記述を実験に基づき定めるのに応用でき, 神経系の同期現象の解析に役立つものである. 第二に,三体間相互作用により現れる神経振動子ネットワークの連続アトラクタ構造について述べる. 現実の神経回路には,従来モデルに取り入れられなかった多体間の相互作用が含まれることがわかっている. そこで我々は,結合神経振動子モデルに三体間の相互作用を導入し,解析を行った. 従来の連想記憶モデルと同様のHebb学習則を用いてシナプス結合パラメータを定めた結果, 複数の連続的なアトラクタが現れることを示す. 神経系における多体間相互作用の機能的意義に関する仮説として,これらの連続的アトラクタが, 複数のアナログ量の作業記憶という神経回路機能をロバストに実現できることを議論する.